小説

SPボーイ
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●プロローグ

父さんはオレが小さい時に何度も言っていた。

「維澄、よく聞くんだぞ?」

今の父さんとは全く違う喋り方。

家政婦が父さんの横に10人ほど並んでいた。

「父さんはお前のことを跡取りにしようと思っているんだ」
「何それ」
「そっか・・・まだ維澄には早いか・・・でもいずれ分かることになるよ」

それから十年後。

オレはその意味が分かった。

父さんは宮沢グループの社長で世界的に有名な会社だ。

パソコン技術は他、
教育面や経済面などさまざまな所で活躍している。

家政婦が洗濯をしながら話していたことがあった。

「旦那様の会社は結構他の会社をつぶしていったみたいですよ」

外国との交流は多い。

その話が本当なら恨みをもっている人間は数知れないだろう。

そしてオレはその宮沢グループの跡取りなのだ。

父さんに呼ばれオレは早歩きで会議室に向かった。

無駄な飾りが付いたドアを開けると父さんがイスに座って腕を組んでいた。

仕事をしてきた疲れが溜まっていそうな神経質そうな顔。

その疲れきった瞳がオレの方を向いた。

「オレに何」

オレは父さんから1番離れているドア側のイスに腰を下ろした。

「お前は跡取りだ」
「だから何さ」
「この宮沢グループがずいぶん恨みを買っているのはお前も分かっているだろ?」

本当の話だったのか。

オレは分かっていたフリをしてうなずいた。

「父さんも命を狙われたことがあったからな。その時の傷も未だに消えない・・・」

父さんの背中には刺し傷がある。

背後から刺されたらしいものだった。

「だからお前にガードマンを付けることにした」
「は?ガードマン?そんなのいらねぇよ」
「まぁまぁそんなことを言うな」

父さんが指を鳴らすとドアから男子が入ってきた。

オレとあまり歳が変わらない男子。

長い前髪で顔がはっきりと見えない。

オレは馬鹿にされたような気持ちになった。

男子は一直線に父さんの横に立った。

「こいつがお前のガードマンだ」

オレは男子をにらんだ。

男子はオレに向かって礼をして前髪を耳にかけると顔がすぐに見えた。

男子は女のように肌が白く大きな目はオレをしっかりと見つめていた。

「・・・いらねぇって言ってんだろ」
「死にたいのか?」

オレは腹が立って立ち上がって会議室を出ようとした。

「待て」
「嫌だ。今更なんだ。外にも出ないのにどうやってオレのことを殺すんだ」
「お前は分かってないのだ」

父さんの呟きを聞かずにオレは会議室を出てドアを荒々しく閉めた。

長ったらしい廊下の1番向こうにオレの部屋がある。

オレは早歩きで部屋に入ってベッドにダイブした。

父さんは冷たくなった。

会社をたち上げた当時はオレに優しくていつでも遊んでくれた。

それなのに会社が儲かるにつれて父さんは無言になり、
家の者とも話さなくなってしまった。

父さんがそうなり始めてからオレは学校に行かなくなって家庭教師を頼んでいた。

こんな時母さんがいてくれたら・・・。

「・・・」

オレは写真たてを持ってきた。

もういなくなってしまった母さんの横で幼いオレが笑顔満開でポーズを決めている。

あの頃に戻りたい。

コンコン

ドアのノック音が聞こえたがオレは返事をしなかった。

一旦静かになったがドアの向こうから声が聞こえてきた。

「・・・維澄様?」

オレは起き上がった。

聞いたことがない声だったのだ。

この家に知らない声の奴なんていない・・・
もしかして父さんが言っていた通りオレは命を狙われているのか?

生唾を飲み込んでオレは静かにドアを見ていた。

「維澄様、私です。ボディーガードになった者です」

さっきの前髪が長い男子か・・・

信用していいのか?

オレはもしもの為の家政婦を呼ぶベルを握りしめてドアを開けた。

「こんにちは」

そこにはあの男子が立っていた。

オレは胸をなでおろした。

「何・・・」
「まだ自己紹介をしていないと思いまして・・・」
「別にいい・・・オレ、お前のこと雇わないから」

オレがドアを閉めようとすると男子はドアに足をはさめて閉められないようにした。

「話だけでも聞いて下さい」

オレは仕方なく話を聞くことにした。

部屋の中に入れるのは嫌だったので接客室で話すことにした。

オレのむかえのソファに男子は落ち着きなく座った。

「で、話って?」
「ボクの名前は育場陽と申します」

陽はそう言って胸ポケットから履歴書のようなものを取り出した。

オレはそれを取って目を通した。

細かいことまで書いてあった。

『育場陽 16歳。
父親は5歳のとき病死、
母親だけで2人の兄弟を育ててきたが病気にかかり仕事ができなくなる。』

「・・・」

だからボディーガードになったのか。

命を張るこの仕事の給料は高い。

その金で家族を養うってか。

「親孝行なんだな」
「そうですかね」
「これがどうしたんだ」

陽は驚いた顔をした。

これを話したら雇ってくれると思っていたのか。

「・・・やっと合格したんです。人の命を守りたくて」
「オレはそんなのいらない。それにこの会社を継ぐことは考えてないしね」
「そ・・・そんな・・・」

オレは陽から受け取った紙をわざとぐしゃぐしゃに丸めて床に投げた。

陽はそれを呆然と見つめる。

「帰れ」

オレはそれだけ言って接客室を出た。

陽には悪いがオレは自分の命は自分で守るんだ。

決して父さんのような人生はおくりたくない。

ドアが開く大きな音がしてオレは振り返った。

後ろから肩をつかまれ陽は拳を振りかざした。

「!!」

オレは反射的に目をつぶった。

その拳はオレの右頬にヒットして床に倒れた。

口から血が出てきていた。

「ふざけんな!!」

陽は怒鳴った。

右頬に陽の熱くなった拳の温度が残っていた。
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