小説

白いピアノ
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●春

ピアノの音は聴いていても飽きない。

低音から高音まで全て素晴らしい音だ。

出来ることなら俺もピアノを弾いてみたい。

出来ることなら、
な。

俺は青春学園に今年入学したばかり。

元女子校ということだけあって男子はそんなに多くない。

逆に俺には好都合だ。
女の園だ。

ミニスカートをはいて髪を装飾。

あのキラキラ光る笑顔は女神様のようじゃないか。

ある意味その目的で青春学園に入ったと言えよう。

入学式当日に友達が出来た。

要という奴でそいつも俺と同じ目的で受験をしたらしい。

HRが終わって要と本屋に行く約束をした。

「かりんちゃん、何しに本屋に寄るの?」

要はニヤニヤしながら俺の鞄を後ろに引っ張った。

こんなに女の子好きの男の中の俺には1つだけ悩みがある。

それは名前だ。

小早川花林だ。

かりんだぞ、
かりん。

まるで女じゃないか。

しかも唯一の男友達の要に「花林ちゃん」とか呼ばれてるし。

「かなめ、それやめろ」
「えぇーいいじゃん、いいじゃん。花林ちゃん」
「じゃぁお前のことも要ちゃんって呼んでやろぉかぁ!」

要は首を激しく振った。

俺は鼻で笑うと1冊の本を手に取った。

要は興味深そうにのぞき込んできた。

『音楽入門〜ヴィヴァルディと〜』

要は眉間にシワを寄せた。

「音楽入門・・・?」

俺はページをめくって細かい所まで立ち読み。

要は興味がなさそうにして漫画コーナーに足を運んで試し読み冊子を読んでいた。

中学の頃から音楽は好きだ。

小学校の頃も好きだったが鑑賞の授業がなかったからそんなに好きになれなかったのだ。

おまけに中学校の音楽教師は美人さんだったし・・・。

美人教師を思い出して俺は咳払いをした。

しばらく立ち読みをしていたら暇そうに要が戻ってきた。

「なぁいつ帰るの?」
「もう少し・・・」
「あと何分?」

要は不機嫌そうに顔をしかめた。

「・・・あぁ分かった、分かった。帰るからさ」
「花林ちゃんはいい奴だなぁ!」

要はバンザイして俺に抱きついた。

俺は要を引き剥がして本を元に戻した。

「あれ?買わないの?」
「あぁ。俺才能とかないしさ」
「そんなの才能とか関係ないだろ?」
「・・・」

俺には音楽の才能がない。

父さんが言っていた。

俺がピアノに興味があって1度だけピアノを習わせてもらったことがある。

でもピアノの弾き方が慣れなくて父さんは俺に言った。

「お前には才能がないんだ。そんな才能がないのにピアノなんてする必要なんてないだろが」

それからピアノを触ることはなかった。

家の家計が苦しかったのは分かっていた。
自分に才能がないことも。

けどピアノだけは弾いていたかったんだ。

俺は必死に頼んだけど父さんは絶対にダメだと言っていた。

いつの間にかピアノを習いたいという想いは消えていき、
ピアノにも触りたくなくなった。

要は俺の背中を叩いた。

「何だよ;」
「ピアノ弾けばいいじゃん。部活には入るのか?」
「考えてないけど・・・要は?」
「俺は野球部かな。全国大会行きたいし」

要は女の子達に野球馬鹿だと言われている。

校庭で朝から野球をしていてソフトボール部にとって邪魔らしい。

俺もそれに付き合わされたことがあった。

俺達は本屋を出て川原の道を歩いた。

要は拳ほどの大きさの石を拾って川に投げた。

水面で3回バウンドして沈んでいった。

「そういえば花林ちゃん知ってる?」
「何?楽しい話なら聞くけど」
「楽しい・・・かも」

要はまた石を拾って川に投げた。

しかし弾ますに沈んでしまった。

「放課後の音楽室に幽霊が現れるってこと」

要は人差し指を立てて俺に向けた。

幽霊?

俺は笑いそうになったのを堪えた。

幽霊なんて信じたことがない。

「そんなのいる訳ないだろぉが」
「えーでもぉーピアノの音が聞こえるんだぜ?」

俺は1つの単語に反応してしまった。

ピアノの音・・・。

「人間じゃないのか?」
「人間のはずなんだけど行くとそこには誰もいないんだよ」
「誰もいないのか?」
「そっ。ピアノの音も聞こえなくなっちゃってね」

聴きたい。

要が言う幽霊のピアノの音を聴いてみたいじゃないか。

俺は決めた。

「要」
「はい?」

俺は要の手を握った。

要は嫌そうな顔をして引きつっていた。

大体の予想はついているのだろう。

「幽霊の真相を確かめようじゃんか!」
「嫌だ!」

要は即答した。

「何でさっ!」
「だって面倒じゃん!どうせ音楽部の奴等が弾いてんだろ?」

分かってんならその話をするなと思った。

「付いてきてもらうからな!」
「えー・・・」
「明日朝野球付き合ってやるからさ」
「本当!?」

要は目を輝かせてうなずいた。

交渉成立っと。

明日は早起きしなきゃなぁ・・・。

自分で言ったことを少し後悔したがしょうがない。

俺は要と別れて家に帰った。

「明日は6時に起きて・・・」

帰る途中俺は独り言を言いながら歩いていたらキレイな高音が聞こえてきた。

「・・・ピアノ・・・・・・」

俺はピアノの音をする方を見た。

大きな白い家。

玄関前には大きな鉄柵。

庭は大きくて花ばかりが咲いていた。

(金持ちそうな家だなぁ〜・・・)

俺は怪しまれないように窓をのぞくと部屋の中で女の人がピアノを弾いていた。

細い指が鍵盤を軽やかにはじいて体をゆっくりと動かす。

女の人の背後しか見えなかったが後ろ姿はピアニストのように気品があった。

女の人の指が止まって俺と目が合った。

俺はビックリして後ずさりしてしまった。

気付かれたということとその女の人がとてつもなく美人だったとのだ。

女の人は窓に近づいて開けた。

長い真っ黒な髪が緩い風に揺れて大きな眼が瞬きを繰り返す。

「す、すいません!のぞいてた訳じゃないんです!」

俺がどもって言うと女の人は微笑んだ。

「あなたピアノが好きなの?」
「あ・・・はい・・・」

女の人はまた頬笑んだ。

「ここの近くの青春学園の人でしょ?」
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