小説

フラワーガーデン
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●裏庭

クラスメイトの声が教室中に響く昼休み。

私は何も考えずにただ教科書を眺めていた。

文字なんか読んでいない。
前を見て人の顔を見るのが嫌なんだ・・・。

私はこの学校に来て楽しいことを見つけていない。

何をしても楽しくないし人と関わるのさえ面倒になってきた。

親には怠け者と笑われ、
妹はいつも私をぬいていく。

気付けば私の居場所は何処にもなくなっていた。

まだお昼を食べていなかった私は購買で買った焼きそばパンを持って屋上に向かった。

風が強いというのに屋上に来てカップルが肩を並べてお弁当をつつきあっていた。

私はそこにいづらくて屋上を出た。

何処に行こうか迷ったあげく1年生以来行っていなかった裏庭に行くことにした。

裏庭は人がいる所を見たことがない。

誰が花の世話をしているのか。
でも去年の夏から今年の春まで花の世話をしていなかった。

卒業生か転校した人が世話をしていたのか、
先生が面倒くさくなってやめたのかと考えるとそれほど気にはしなかった。

裏庭に着くとキレイな花がたくさん咲いていた。

私は植物が足元に生えていたベンチに座った。

「・・・キレイ」

私はポツリと呟いた。

「そうでしょ」

ビニールハウスから男子が出てきた。

見たことがない。

男子の真っ黒の髪の毛が風に揺れて優しそうな瞳が私に笑いかけてきた。

私は目をそらしてパンを口の中に詰めた。

男子は首をかしげて私の隣に腰を下ろした。

私はビックリしてむせそうになった。

何も喋らない私を見て男子は笑った。

「こんにちは」

私は無視を続けた。

男子はまた笑って私の肩をたたいた。

「聞こえてるんでしょ?」
「聞こえてます」
「耳は悪くないんだな。ここに来るの初めてさん?」

男子はまた無視する私の顔をのぞきこんで微笑んだ。

「緊張してるのか?」

私は顔が熱くなって立ち上がった。

「何なんですか」
「花好き?」

男子は私の話を無視して質問してきた。

「え・・・花・・・?」
「そっ」
「・・・・・・す・・・・・・好きな方かも・・・」

男子は微笑んで立ち上がった。

その背は私よりはるかに高くて見上げえてしまう。

男子は手を出した。

私は男子の手に目を向けた。

手には土が付いていたがキレイな白い手だった。

動かない私に男子は

「握手」

と一言。

「え・・・何で」

男子は私の手を握って振った。

「よろしく。オレささなみ。笹並代美。君は?」

私はつられて名前を言ってしまった。

「・・・代千華」
「何代千華?」
「・・・倉部」
「くらべさんか」

代美は微笑んで私の手を軽く握った。

この人は何なんだ。
私はしばらく理解出来ないままベンチに座らされて話しかけられた。

よく聞くと花の話ばかりだった。

私は思い切って訊いた。

「花が好きなの・・・?」

代美は笑ってうなずいた。

「花が好きなんだ。ここの世話をしてるのオレだよ」

代美が世話をしていたんだ。

代美は足元の花を指差した。

「あそこの花の種がここまできたんだ」

次にレンガの囲いの中を指差した。

レンガの囲いの中にはピンク色の花。

「何ていう花なの?」
「サルスベリ。別名百日紅っていう花。十分に日を当てるのが最大のポイントなんだ」
「さるすべり?」

私は笑いそうになった。

「樹皮がツルツルしていて猿も滑ってしまうっていう所から付いた名前なんだ」

私は知識が増えていくような気がして嬉しかった。

それから代美は歩きながら1つ1つ花の名前と特徴を言って教えてくれた。

私はお昼を忘れて代美の話に聞き入った。

代美はサルスベリの葉をなでながら言った。

「裏庭はオレの居場所なんだ」

居場所・・・

代美は自分の居場所がなかったのか・・・。

私と同じ・・・。

「どうして倉部さんはここに来たんだ?」

私は拳を握りしめた。

「・・・・・・・・・」

言えない・・・

私は走り出した。

「倉部さん!?」

代美は大声を上げた。
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